認知症⑥~治療:ご自宅で可能な対策の後編~

ホームページの移行に伴い、しばらく記事の更新が遅れてしまいました。申し訳ありませんでした。

今回は認知症の治療の後編(最終回)です。

まずは、おさらい。
~治療の概要~三本柱です。
①環境改善によるアプローチ
②食事の与え方、栄養学的な治療
③薬物による治療

今回は②食事・栄養と③薬物について説明します。
薬物治療は専門的な内容で難しい話になるだけなので、簡単にだけ触れます。

特に飼い主さんに知っていていただき、実践していただきたいのが食事の与え方です。
認知症というテーマで食事についてを書きますが、若い動物でも、老化はまだまだの動物にとっても大切な内容だと思います。
全ての犬猫にとっての、飼育のご参考になればと思います。

②食事について

<食事の与え方>
本来、食事とは楽しいものです。
おいしいご飯が出てくる。それだけでもうれしいものです。人間でも同じですよね。

ですが、今から書くことを、ちょっと想像してみて欲しいのです。

何も考えなくても、決まった時間になるとお皿に同じご飯が乗って運ばれてくる。
おなかはすいているので、それを口に運び、ひたすら飲み込むだけ。
「飼い主さんが、僕がいっぱい食べたことをほめてくれる、うれしい」

これって、ほとんどすべてのわんちゃんや猫ちゃんの食事風景だと思います。
この食事って、楽しいものでしょうか。
日々、たいして変化のない食事行動では脳への刺激が足りません。
彼らは、食事をするときに何も考えてないのです。

私たち人間は「今日は何を食べようかな?」とか「どこのお店に行こうかな」とか。
または料理される方は、『作る楽しみ』がありますし、『家族においしく食べてもらう楽しみ』もあると思います。
このとき、脳ではいろんな楽しいことを考えていると思います。この刺激がとても大事なのです。

では、わんちゃん猫ちゃんに、食事を与えるうえでどのような工夫ができるでしょうか。

食事内容のバリエーションをあれこれと工夫したときに刺激されているのは、主に飼い主さんの脳です。ペットの脳への刺激は少ないと思います。
もちろん、飽きさせないなどの理由で、時には色々与えるものを変えてあげることも大事です。
栄養のバランスをしっかりとることができれば、あれこれ工夫して与える方がよいのでしょうが、実際は『栄養のバランスをとる』ことがとても難しいと思います。(ちなみに、私にはできないと思います。)

大事なのは、そこへの工夫ではなくて、そのフードを食べるときに、ワンちゃん猫ちゃんが工夫して(=頭を使って)食べる状況を作ってあげることです。

犬や猫用に、知育トイというグッズがあります。
代表的な犬用の知育トイとして「コング®(KONG®)」があります。
本来はしつけ用のおもちゃとして販売されていますが、高齢犬でも十分使えるものだと考えます。
おもちゃの中に、ドライフードを入れておき、転がしたりすると中のフードが出てくるというおもちゃです。
かじられたりしないように、硬めのものが良いようです。
(※かじって飲み込んじゃいそうな子は、使えないかもしれません。)
コング以外にも多種多様なおもちゃがあります。「知育トイ 犬」「知育トイ 猫」と検索してみてください。

コング®

同じような発想のものを、手作りで作ることもできると思います。
ペットボトルに穴をあけたり、空き箱を工作したり、ガチャガチャの空き容器を工夫したり、アイデアはいっぱいあると思います。自作のものは、壊されてしまったら、捨ててしまえばいいので、気が楽です。
猫さんにとっては、転がして遊ぶおもちゃが向いています。転がすと中からドライフードやおやつが出てくるのは、猫ちゃんにとって楽しいものですし、達成感もあります。
飼い主さんにとっても、ご自身のペットの性格や行動にあわせて、あれこれ工夫して作ることも楽しいものです。

特に室内犬・室内猫の運動不足の解消にも活躍します。
猫にとっては【疑似狩り】をしているようなものです。遊んでいる様子を見ていると、とても楽しそう。

市販・自作問わず、安全性については十分にご配慮ください。
特に、破壊してしまい、異物として飲み込んじゃったりしないようにご注意ください。

早食いしがちな、わんちゃんねこちゃんには「早食い防止用のフードボール」「グリーンフィーダー®」などが利用できます。
口や舌を使って工夫しないとごはんが食べられないので、常に考えて(脳を使って)食事をするようになります。

嗅覚を頼りに、ごはんやおやつを探す商品もありますね。これらは宝探しゲームを楽しんでくれます。

こうした与え方の工夫も【環境エンリッチメント】の一環です。
とにかく、その子に合わせた工夫をすることです。

<老化への栄養的な配慮>
栄養による手助けは【酸化ストレス】への対策がキーワードになります。

酸化ストレスに対抗する大事な栄養素に、DHA・EPA・中鎖脂肪酸があります。
青魚に多く含まれる脂肪酸の一種です。
飼い主さんご自身で、健康サプリメントとして飲まれてる方もいらっしゃるかもしれませんね。
青魚が健康に良いと言われる、一つの理由でもあります。

こうした栄養素を強化しているフードやサプリメントがあります。
認知症の進行を遅らせることが確認されている論文も出ています。
いろいろなものを与えて栄養のバランスをとるのは大変難しいことなので、はじめから栄養のバランスがとれているものを与える方が簡単だと思います。

具体的に、どのようなフードが利用できるかについては、かかりつけの動物病院に相談なさってください。
当院でもお勧めしていますので、お問い合わせください。

③薬物による治療
薬物治療は、不安の軽減が主な目的になります。
抗うつ剤、サプリメント、時には漢方も試してもよいかと思います。

ただし、薬物治療はそれ単独で行うものではありません。
環境の工夫が一番大事、栄養の工夫も次に大事、その補助的なものだと思われます。

以前にも書きましたが【眠り薬ください】という認知症の動物の飼い主さんからの依頼が多いのですが、これはもう治療ではないと思います。

できれば、その前に治療を始めたいとこです。

治療の後半は、専門的なことが多いですから、簡単に書きました。
大事なことは、より早期に脳の老化のサインを見つけてあげること。他の病気の対応をしてあげること。認知症が疑われたら、軽度なうちに進行させないようにあれこれ工夫すること。
長々と書いた環境の工夫は特に大事だと思います。
薬に頼らずとも、環境やごはんを工夫することで病気の進行が予防できるなら、素晴らしいですよね。

そのようなことを知ってもらいたくて、認知症について書きました。
大変な介護に追われる飼い主さんが少しでも減れば、とてもうれしいです。

みやペットクリニック 宮本