ノミやマダニをつけたわんちゃん・猫ちゃんの来院が増えています。
ペットの犬猫がノミやマダニに感染すること自体は昔からありました。
ですが、近年、ペットの犬猫がノミやマダニに感染することが、かなり危険な状況になってきました。
マダニの感染が特に危険です。
マダニは、人間や動物を吸血して、多くの病原体を媒介します。
その中でも近年、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)と呼ばれる病気が注目されています。

SFTSは、とても怖いウイルス性の人獣共通感染症です。
人の病気としてのSFTSは、特に高齢者で致死率が高く、西日本を中心に毎年10人前後の死者が出ています。(高齢者の致死率30%)
ペットの犬猫にもこのウイルスは感染しSFTSを発症します。
そして、犬猫のSFTSの致死率は人よりも高いです。(猫で50~70%、犬で40%)
特に猫ちゃんは致死率が高いだけでなく、報告されている症例数もかなり多く、野良猫や地域猫、自由に外出している猫ちゃんは、かなり危険な環境にあると言えます。
人のSFTSは、ダニから感染するだけではなく、感染動物との接触によっても感染が広がります。
つまり、犬猫と接する機会が多い人ほど、感染リスクが高くなります。
外出自由な猫ちゃんが、外でマダニから病気に感染して発症、ぐったりしていく状態で、飼い主さんにも感染が広がり・・・なんてことが実際に起こっています。
これを完全に防止することは、なかなか難しいものですが、それでも、マダニとの接触を極力避けること(※)と、ペットの犬猫のマダニ予防をしっかり行うことで、マダニが人間の活動範囲に持ち込まれる機会を減らす努力は必須だと思います。
〔※草むらを避けること、野山にみだりに立ち入らないこと、人間は肌を露出してこれらの場所に立ち入らないこと、お庭が草ぼうぼう状態では無くすこと、などの工夫が考えられます。〕
もちろん、散歩のときにわんちゃんが草むらに入る機会を減らすことや、猫ちゃんを外に出さないように飼育することが何より優先される対策です。
三重県は、周辺の県と比べても比較的SFTSの発生が多いです。
特に、伊勢志摩地域での報告が多く、人、犬猫全てで、病気の報告、死者の報告が上がっています。
SFTSの詳しい説明、ウイルスの広がりなどの情報は、「NHK」のマダニの特集ページや「国立健康危機管理研究機構」のHP上で公開されています。
病気のことを、さらに詳しく知りたい方は、これらのサイトもぜひご覧になってください。
特にNHKの特集サイトは、専門家以外の経験談も多く掲載されていて、大変興味深く学ぶことができておすすめです。
・NHKの「みんなで作る危険生物マップ~マダニ編~
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kikenseibutsu/
・国立健康危機管理研究機構HP
https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/idwr/article/sfts/020/index.html
【まとめ】
SFTSは人と動物の間でも感染が成立してしまう感染症です。
その感染のスタート地点は、マダニの感染から始まります。
他の人や動物の安全を守るという観点から、当院では、フィラリア症の予防やワクチン注射だけでなく、ノミ・マダニの予防をきちんと受けさせることは飼い主さんに求められている最低限のマナーであり、また、飼い主さんご自身の安全を守るための保険のようなものだと考えています。
もちろん、ご自身のわんちゃん、ねこちゃんの健康にも関わります。
しっかり予防してあげてください。
病気のリスクが増していることから、当院でトリミングを利用される子やホテル預かりの子は、ノミ・マダニ予防、ワクチン接種は、お預かりのための必須条件とします。
予防をされていない方は、ご相談ください。
市販のノミマダニ駆除薬は、効果が不十分なケースがあります。
使用を避けて下さい。
感染症を完全に防ぐことは難しいものです。
それは、新型コロナウイルスが世界中で大流行したことからもわかります。
それでも、私たちは、マスクをして、手洗いやうがいをして、人との接触を減らす努力をして、新型コロナウイルス感染症の流行を乗り越えてきました。
もし、こうした努力を誰一人として行わなければ、さらに流行はひどいものになっていたでしょう。
これと同じことで、できるだけ多くのわんちゃんねこちゃんが、マダニに感染しないように予防を実践してくださること。その積み重ねによって、病院に来院するわんちゃん・猫ちゃんだけでなく、皆さん自身の命が危険にさらされるリスクを大きく下げられます。
積極的なノミ・マダニ予防をお願いします。
【おまけの話(とはいえ、とても大事な話)】
あまり、起きて欲しくはないことですが、もしもマダニの感染に気付いたら、無理やりとろうとしないでください。
吸着したマダニの腹部をつまむと、マダニの体液を体内に注入するようなことになってしまいます。(イチジク浣腸を押しているのと同じこと)
また、食いついているマダニは取ろうとしても容易にとれません。マダニの口器は皮膚組織に固着しているため、これを無理に引っ張ると、口器がちぎれて残ってしまいます。
犬猫の場合は動物病院へ速やかに連れて来てください。人の場合は皮膚科へかかってください。