引き続き、認知症のお話をします。
今回は犬を中心に症状を説明しますが、猫でも基本は同じです。
症状の話の前に、先に治療についての結論を書いてしまいますが、現状では認知症を「治す」方法はありません。
お薬も含めて、進行を抑制する方法があるだけです。
実際は認知症の治療法が開発されてきています。
少し前に画期的な新薬として話題になったので、お聞きになった方もおられるかもしれませんね。
人間のアルツハイマー型認知症に対する新薬(アデュカヌマブ)のことです。
このお薬は、アメリカで承認され、徐々に人の方の治療が始まっているところです。
ただし、実はとても高価な薬です。一年間飲み続けると、日本円にして500~600万円くらいだそうです。
そして、そもそもの話になりますが、人間のアルツハイマー型認知症と、犬や猫の認知症が全く同じかどうかは、よくわかっていません。
安全性の面でも、人と動物の違いを確認する必要があると思います。
犬や猫にも同様に使えることがわかってきたとしても、すぐにどの子も試せるようになるとは考えにくいです。
というわけで、結局のところ、現時点での犬や猫の認知症の治療の現実は、早期発見と進行抑制に尽きると思います。
どのような病気であっても、結局は同じなのでしょうが、単純に言えば、この三点と考えています。
①早期発見:できるだけ早期に病気の兆候を見つけること。
②進行抑制:いろいろな方法(治療)を組み合わせて、できる限り進行・症状を抑えること。
③負担軽減:飼い主さんの介護の大変さを少しでも軽減すること。
全ては①早期発見から始まります。
実際には、とても残念なことにかなり進行してしまった認知症の相談が多いです。
「夜寝ない。夜泣きがひどい。私が寝れないので、眠り薬ください。」といった感じの相談です。
人間の睡眠導入剤のようなものを想像して、相談に来られているのだと感じますが、実は「都合よく眠ってくれる、安全な眠り薬」というものは存在しません。そもそも、別の病気です。不眠症の方が飲む睡眠導入剤と、昼夜逆転で夜に寝ようとしない犬や猫へ飲ませる『眠らせ薬』は全く別のものだおと考えてください。
それは、実際は麻酔薬に相当するような薬です。
当然ながら、動物の体への影響も大きいですし、実際はそれを使うことによって、認知症がさらに進行してしまうことがわかっています。
『眠らせ薬』を使う時は、あれこれやったけど、効果が上がらない、もう他にできる事がないときに使うもの。ほぼ最終手段と考えた方がいいです。
そのような状況にしてしまわないためには、犬や猫の認知症がどのようなものかを、ご家族によく知っていただくことが一番大事なことだと、私は考えています。
前置きがとても長くなりましたが、今回と次回はそういったお話です。
以前より「柴犬(日本犬)はボケやすい(認知症になりやすい)」と言われてきましたが、認知症の発生率には犬種による差はないことがわかっています。そうした報告(論文)が増えています。
はっきりとした根拠が示されているわけではありませんが、「柴犬(日本犬)が病気に強く、長生きの傾向があった」ために、「認知機能が低下してくるまで長生きする日本犬が西洋犬に比べて多かった」ということが真実のようです。
当然、犬種を問わず、年齢が上がるほどにあらゆる病気のリスクが高くなります。
多くの病気への予防・健康診断等をしっかりしていただく機会が増えて、平均寿命が延びた結果、残念ながら高齢になってから起きる病気が増えています。がんや心臓病・腎臓病などが増えてしまうのと同様に、認知症も増えてきた。そう理解した方がよさそうです。
人間と同じですね。
認知症は、ゆっくりと進行していきます。ある日突然、認知症になるわけではありません。
(※病気や事故によって脳が受けた障害によって起きる、認知機能の急激な低下は例外です。これも認知機能の低下という症状ですが、病名としての認知症とは言えません。)
きちんとした難しい定義はあるのですが、簡単に書くとこうなります。
「歳とともに、だんだん衰えていく脳の機能(学習能力・記憶力・判断力等)が、これまでの日常生活を維持できないほどに低下した状態」
当然、その手前の軽度の認知症の状態もあります。程度は様々です。
身近に、高齢のご家族など、人間の認知症の方を経験されたことがある方は、理解しやすい部分もあると思います。動物は言葉をしゃべらない、など違う点もありますが、やはり基本的なことは共通しています。
以下は、動物病院に実際にある高齢の犬の相談で、私が認知症の疑いかもと説明したことがある、高齢の犬の症状の例です。
・粗相(トイレの失敗)が増えた。
・よく吠えるようになった。夜泣きがひどい。
・高齢になってきたら無気力になった。無反応。
・逆に急に怒りっぽくなった。感情の起伏が激しい。
・いつもの場所なのに、迷子になってしまう。ここがどこなのかわかってない。
・夜になかなか寝ない。
・うろうろ、トボトボ歩き続けている。
・段差が怖いので玄関に犬の居場所を作った。
・部屋の隅で動けなくなる。隙間に入ると抜け出せなくなる。
いかがでしょう。認知症の犬がどのような子か、イメージがつかめましたか?
高齢の犬猫を世話したことがある方は、たとえ認知症と思って接していなくても、これらの症状の一つや二つに心当たりがあるかもしれません。実はその子も、認知症だったのかもしれません。
次回は、認知症に関連したこれらの症状を、系統立てて整理してて説明していきます。
病気のことを早く見つけたいという飼い主さんは、病院に相談にいらしてください。
動物を連れてきていただくことが大変な状況であれば、チェックシートを準備していますので、それを取りに来ていただくだけでも構いません。
次回に続きます。お読みくださりありがとうございました。